不正咬合の種類(9) 交叉咬合、鋏状咬合、偏位咬合
今回は交叉咬合、偏位咬合について、Q&A形式で説明していきます。
Q:交叉咬合(こうさこうごう)、鋏状咬合(はさみじょうこうごう)、偏位咬合(へんいこうごう)とは、それぞれどのような歯並びの状態のことでしょうか?通常、上の前歯は下の前歯の外側(唇側)に位置していますし、上の奥歯も下の奥歯の外側(頬側)にあるのが正常です。交叉咬合はこの関係が逆になっている状態、つまり下の前歯や奥歯が上の前歯や奥歯の外側(唇側や頬側)にある状態のことです(図1、2)。前歯部の交叉咬合が複数歯に連続して起こると反対咬合と呼ばれます(図3)。
図1)前歯部の交叉咬合
図2)臼歯部の交叉咬合
図3)反対咬合
奥歯には内側と外側に山(咬頭)があり、その間に谷(窩)があります。正しい噛み合わせでは上の谷と下の外側の山が当るはずですが、上の歯が外側に向きすぎていたり、下の歯が内側に倒れすぎたりすることですれ違いが起きることがあります。このようなかみ合わせを鋏状咬合といいます(図4、5)。
図4)鋏状咬合 外側から
図5)鋏状咬合 内側から
偏位咬合とは上の歯並びに対して下の歯並びが左右方向にズレた噛み合わせのことです。
図6)偏位咬合
図7)下顎骨の変形と、顎顔面の左右非対称が見られる
気が付かないこともありますが、このような噛み合わせの方は、上下の顎が骨格的に大きくズレていることがあります(図6、7)。
Q:交叉咬合、鋏状咬合、偏位咬合をそのままにしておくとどのような弊害がありますか?
色々な弊害が起こる可能性がありますが、交叉咬合も鋏状咬合も発生する部位によっては噛み合わせに影響を及ぼすことがあるので注意が必要です。又、正しくかみ合わさらないことで、上下の歯が異常に削れたり(咬耗)歯周病のように歯がぐらぐらになったりすること(咬合性外傷)もあります。偏位咬合は顎の変形に関与するだけでなく、顎の動きにも影響を与えるため、顎関節症を発症しやすくなります。残念ながら、顎骨や顎関節の変形は矯正治療だけでの改善は不可能で、ズレが大きい場合外科的な治療が必要になります。
Q:どのような治療方法がありますか?
交叉咬合の治療は混合歯列期と永久歯列期では多少治療方法が異なります。永久歯列期ではマルチブラケット装置(図8)で改善しますが、混合歯列期ではクウォードヘリックス(図9)やリンガルアーチなどの装置を使用することが多くなります。
図8)マルチブラケット装置
いずれの時期でも、治すために歯を並べるスペースが必要な場合は抜歯が必要なこともあります。
図9)クウォードヘリックス
鋏状咬合の治療は、下顎歯列が狭すぎる場合は拡大を行います(図10)。外側を向いた歯を内側に向けるために、図のようなリンガルアーチを使うこともあります(図11)。
また、上の歯の外側と下の歯の内側にゴムをひっかけてもらう治療法(クロスエラスティック)などもあります。
図10)下顎の拡大用リンガルアーチ(左の奥歯が倒れている)
図11)特殊なリンガルアーチ
Q:交叉咬合や鋏状咬合の治療の開始時期はいつがいいでしょうか?
交叉咬合や鋏状咬合は偏位咬合や顎の左右への変形や顎運動の異常の原因になることがあるため、気が付いたらできるだけ早く治療を開始した方が良いでしょう。左右どちらかに偏った強い噛み癖が付いてしまうと、改善はより難しくなります。
Q:偏位咬合は治りにくいですか?実際の治療例を見てみましょう。症例1は上顎が下顎より狭く、右側への偏位咬合と前歯部臼歯部の数か所に交叉咬合がある高難度の症例です(図12)。治療期間は3年半(図13)。症例2は左側犬歯だけの交叉咬合で一見簡単そうですが、左側で噛む癖が非常に強く、なかなか変位が治らず、治療期間3年3か月でした。(図14、15)。2症例とも正中のズレは治っていません。
図12)症例1 治療前
図13)症例1 治療後
図14)症例2 治療前
図15)症例2 治療後
症例3は混合歯列期の臼歯の交叉咬合です(図16)。上顎の拡大と部分的なブラケット治療だけで1年ほどの治療期間でした。図17は永久歯が生え揃った4年後の写真ですが、ほとんど問題なく咬合しています。
混合歯列期の場合、噛み合わせの癖がそれほど強
くなければ比較的簡単に治ることもありますが、一般的には偏位咬合の改善には時間がかかり、矯正治療だけでは完全に治せない場合もよくあります。骨格、顎関節症などの機能的問題が大きい人や、左右非対称の見た目も改善したい場合は外科矯正を選択する方が良いと思います(図16,17)。
図16)症例3 治療前
図17)症例3 治療後