不正咬合の種類(7)上下顎前突
Q:上下顎前突(じょうがくぜんとつ)とは、どのような歯並びの状態のことでしょうか?
言葉通り、上の顎も下の顎も両方突出している状態のことをいいます。又、顎骨自体が突出していなくても上下の前歯が突出している場合も上下顎前突に分類されます(正確には上下顎歯槽前突 図1,2)。
口元が突出した顔貌のため、患者さんの中には「口ゴボ(くちごぼ)」と表現される方もいらっしゃいます。
上下顎の関係では上顎前突や下顎前突だが、前歯が上下とも突出している場合はⅡ級の上下顎前突(図3)、Ⅲ級の上下顎前突(図4)といった言い方をする場合もあります。
図1 上下顎前突の骨格
図2上下顎前突の口腔内
※軽度の叢生はあるが、噛み合わせに問題はない
図3 Ⅱ級の上下顎前突 骨格
図4 Ⅲ級の上下顎前突 骨格
Q:上下顎前突をそのままにしておくとどのような弊害がありますか?
上下顎前突には機能的な問題はありません。見た目が気になるかどうかだけで、強いて弊害をあげるなら、歯が前に出ているため口が閉じにくいことです。
Q:上下顎前突の原因は何ですか?
頭蓋骨に対して上下顎骨が前方に位置しているのが上下顎前突の骨格的な特徴ですが、これは遺伝が主な要因です。白色人種ではその割合が少なく黒色人種では多く、黄色人種はその中間ぐらいの割合でみられます。
上下の前歯が出ている上下顎歯槽前突は、歯の大きさに対して顎が小さく、デコボコに並ぶ代わりに前方に倒れて並んでいる状態ですので、これも歯の大きさ、顎の大きさといった先天的、遺伝的な原因が強く関与します。
ただ、デコボコに並ぶか前方に倒れるかは、その人の舌の力(舌圧)や癖、口を閉じる力(口輪筋)や口呼吸の有無なども関係するので、後天的な要素も原因になります。
Q:上下顎前突の治療の開始時期はいつがいいでしょうか?
永久歯がすべて生え揃い、顎骨が大きくなるのは中学生頃です。それまでは噛み合わせが完成しないため、治療は開始しない方が賢明です。
ただし、上下顎前突の原因になる舌の癖、口呼吸などがある場合は、小学生以下の成長中にこれらの習慣を改善することで、多少ですが症状の悪化を予防できます。顎骨の成長が終了に近づき永久歯がすべて生えた状態で、口元の突出感が気になるようなら抜歯を行い治療開始となります。
Q:どのような治療を行いますか?
上下の前歯を後ろに下げたいため、犬歯の後ろの小臼歯を4本抜歯してマルチブラケット装置(図5)で治療を行います。親知らずを抜歯するとさらに後退量が増えるので治療前に抜歯することもあります。舌や口元の筋肉に問題がある場合は原因除去のため筋機能訓練を治療前に行います。これは治療後の後戻りの予防にもなります。より大きな歯の移動が必要なときは矯正用インプラント(図6)を併用することあります。
※以下の写真は治療例です(治療期間30か月)。口元の突出感が強いため、矯正用インプラントを併用しました。レントゲンの比較で口元が大きく変化したことがわかります。このケースではこのような結果になりましたが、元々の骨格や歯の大きさなど条件が様々なため、皆が同じ治療結果になるとは限りません。
図5 マルチブラケット装置
図6 矯正用インプラント
治療前 前方
治療前 側方
治療後 前方
治療後 側方
治療前(上)治療後(下)のレントゲン写真