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不正咬合の種類(6)空隙歯列・正中離開
Q:空隙歯列(くうげきしれつ)とは、どのような歯並びの状態のことでしょうか?
アゴの大きさに対して歯の大きさが小さいと歯と歯の間に隙間ができます。隙間のある歯並び(すきっぱ)のことを空隙歯列といいます。特に上の前歯の中心に隙間がある場合は正中離開(せいちゅうりかい)といいますが、空隙歯列の一種です(図1,2)。
図1空隙歯列 いろいろな部位に隙間がある
図2正中離開 隙間は真ん中のみ
Q:空隙歯列をそのままにしておくとどのような弊害がありますか?
見た目が悪い以外の弊害としては①発音への影響②食べ物が隙間からはみ出て咀嚼しにくい③食べ物が詰まりやすく歯茎に傷が付きやすくなる、などがあげられます。
Q:空隙歯列の原因は何ですか?
顎の大きさに対して歯が小さいことが原因ですので、遺伝的な要素が関係します。顎が大きい人、元々歯の本数が少ない人や、歯の大きさが小さすぎる矮小歯がある人は隙間ができやすくなります。
正中離開は「上唇小帯」という唇と歯茎をつなぐ部分の位置や大きさが原因のことがあります(図3,4)。また、舌が大きすぎる人や舌の癖によって歯が押されること(図5)、下の唇を頻繁に噛む癖(咬唇癖)も上顎前歯に隙間ができる原因のひとつです。この場合は癖が治ると症状が改善されることもあります。
図3下顎前歯2歯の先天欠如
図4上顎側切歯の矮小歯と上唇小帯低位付着
図5舌癖が原因の空隙歯列
上下の歯列に隙間があるだけでなく上顎前突と開咬の症状が見られる
高齢者や歯周病が進行すると、歯を支える骨や歯茎が弱くなり噛む力や舌の力に負けて歯が外側に倒れることで隙間ができることがあります。また、噛む力(咬合力)や歯ぎしりが強い人も同様の症状が出ることがあります(図6)。
図6咬合力が原因と思われる空隙歯列
過蓋咬合(噛み合わせが深い)で、前歯がすり減っており歯茎の退縮(歯茎が減った状態)がみられる
Q:空隙歯列の治療の開始時期はいつがいいでしょうか?
原因になる癖がある場合は、成長期のお子さんでもすぐに始めた方が将来さらに悪くなることを防げるためいいと思います。ただし、成長期は顎が発達し、噛み合わせの変化があるため、この時期だけで治療が完了することはありません。すべての隙間を閉じるにはすべての永久歯が生え揃う中学生以降が本格的な治療の開始時期になります。
Q:どのような治療を行いますか?
基本的にはマルチブラケット装置かマウスピース型矯正装置を使用して治療を行いますが、その前に改善可能な原因を取り除きます。舌や唇の癖のある人は筋機能訓練等を行っていただき、歯周病がある場合は矯正治療前に一般歯科での歯周病治療が必要になります。上唇小帯の位置が悪い方は、すべてではありませんが切除する場合もあります。
歯の本数が足りない場合はその隙間に将来的にインプラントやブリッジなどの「補綴処置」を行うのか、上下のかみ合わせも考慮しながらどうやってすべての歯を噛み合わせるかを検討する必要があり、場合によっては上下の歯の本数を合わせるために歯を抜く場合もあります(図8,9)。
図8 治療前
下顎前歯の欠損
図9 治療後
上顎の小臼歯2本を抜歯して下顎と同じ本数にして治療
矮小歯の場合は、将来その歯をそのまま使うか、通常の形の差し歯などに作り変えるかを治療開始前に決定する必要があります(図10,11)。
図10 治療前
上顎側切歯の矮小歯
図11 治療後
側切歯はレジン修復により形態修正した
Q:治療後に隙間ができることがありますか?
すべての不正咬合に共通することですが、治療後にしっかり保定しないと歯は動こうとします。舌の癖や歯周病などの原因が改善されていない場合は、隙間ができやすい傾向にあるため注意が必要です。咬合力が強い方や舌が大きいなど改善ができない特徴がある方は、残念ながらしっかり保定してもわずかに隙間ができることがあります。空隙歯列は、他の不正咬合に比べて元に戻りやすい傾向があるため通常の保定装置に加えて図のような固定式のリテーナーを使用するようにしています(図12,13)。
図12 治療前
前歯部に空隙あり
図13 固定式のリテーナー
不正咬合の種類(5)過蓋咬合
今回は過蓋咬合について、Q&A形式で説明していきます。
Q:過蓋咬合(かがいこうごう)とは、どのような歯並びの状態のことでしょうか?
下の前歯がほとんど見えない位に上の前歯がかぶさっている状態のことです。正常な状態では奥歯で噛んだ時に、下の前歯が上の前歯の裏側に軽く触れていますが、過蓋咬合では下の前歯の切端は、歯ではなく上の前歯の内側の歯茎を噛んでいることもあります。
歯の大きさや傾斜角にもよりますが、上の前歯と舌の前歯の重なり(オーバーバイト)は2~4ミリが正常値ですので、それより大きいと過蓋咬合に分類されます(図1,2、3、4、5)。
図1過蓋咬合(前から)
図2過蓋咬合(横から)
又、上の前歯が内側に倒れていなくても図3,4のように前に傾斜していたり、図5のように反対咬合になっていても上下の歯の重なりが大きいと過蓋咬合と呼ばれます。
図3過蓋咬合の上顎前突(前)
図4過蓋咬合の上顎前突(横)
図5過蓋咬合の反対咬合
Q:過蓋咬合をそのままにしておくとどのような弊害がありますか?
見た目はそれほどおかしいとは感じないかもしれませんが、下顎の前後左右の動きが阻害されるため、顎の関節に影響が出やすく、下顎の前方への成長も抑制されます。又、下顎の前歯が磨り減ったり、上顎の前歯に強く当たることで出っ歯になることがあります。
Q:どのような治療方法がありますか?
前回の開咬の話の時にも説明しましたが、過蓋咬合の原因も骨格や筋肉など、遺伝的な要素が強く(図6)、成長がある場合はできるだけ骨格的な問題を改善する装置(ヘッドギアやバイオネーターなど)で治療を行います(図7、8)。又、ユーティリティーアーチ(図9)を使用して上の前歯を鼻の方向に押し込むような力(圧下)をかけて深い噛み合わせを治します。
図6過蓋咬合になりやすい骨格(反時計回りに成長しやすい)
図7ヘッドギア 上顎臼歯の遠心移動と挺出による咬合挙上を期待する。
成長が終了している場合はマルチブラケット装置で治療を行いますが、基本的に小臼歯の抜歯を行うと噛み合わせが深くなりやすいため、できるだけ抜かずに治す方法を選択します。
特に下の歯は抜きたくないためデコボコがたくさんあっても何とか抜かずに済むように工夫します。例えば先ほど説明したヘッドギアは奥歯を後ろに移動させることができるため、噛み合わせが深くなりにくくなりますし、側方に歯列を拡大することでも噛み合わせは多少浅くなるのでマルチブラケット装置と併用することもあります。
図8バイオネーター 臼歯部側方歯部の挺出を促す
図9ユーティリティーアーチ 前歯部と臼歯部にのみブラケットが装着されている。
図10 症例1正面
症例1。犬歯の根元が露出しているため上顎左右の犬歯を抜歯して治療しました。下の前歯は上の歯と強くぶつかっているため初めはブラケットがつけられません(図12)。
下の歯は抜歯していません。治療前は見えなかった下顎の前歯が見えています(図13,14)。
Q:過蓋咬合を予防するにはどうすればいいですか?
過蓋咬合、骨格や咬合力(嚙む力)に影響を受けます。一般的には6歳臼歯の後ろから第2大臼歯が生えてくることで噛み合わせが少し浅くなるのですが、過蓋咬合になりやすい骨格の方はこの時期になっても噛み合わせは深いままです。このような骨格の方は永久歯がすべて生え変わる少し前から奥歯を後ろに移動したり、側方に拡大するなどの治療を始めることで、ある程度過蓋咬合の悪化を防ぐことができます。(図15,16,17,18)
図11 症例1(横)
図12 症例1(治療途中)
図13 症例1(治療後正面)
図14 症例1(治療後横)
噛む力が強すぎることが原因の不正咬合
図15 混合歯列期の過蓋咬合
図16 横から見たところ、上顎前突の症状もある
図17 ヘッドギア使用後
図18 永久歯の生え変わりと奥歯が後ろに移動したことで過蓋咬合がある程度改善している。
Q:過蓋咬合の治療の開始時期はいつがいいでしょうか?
成長に個人差があるため一概には言えませんが、男児なら小学校高学年ごろから、女児は中学年ごろから。横の歯が生え変わり成長が始まる少し前に治療を始めるといいと思います。