不正咬合の種類(2)叢生
前回に引き続き、基本的な歯並びについての説明をQ&A形式で説明していきたいと思います。
Q:叢生(そうせい)とは、どのような歯並びの状態のことでしょうか?
一般的には乱杭歯と呼ばれており、歯並びに連続性がなく、前後左右にデコボコしている状態のことを叢生と呼んでいます。
歯の大きさに比べてアゴが小さいことが要因でこのような状態に歯が並んでいます。(図1,2,3)
いわゆる八重歯も叢生に分類されます。(図4)
図1 叢生歯列(前から)
図2 叢生歯列(上アゴ)
図3 叢生歯列(下アゴ)
図4 八重歯
Q:叢生をそのままにしておくとどのような弊害がありますか?
見た目が悪いことが一番の短所ですが、それ以外にも食べかすがたまりやすくなり、正常な歯並びに比べて、虫歯や歯周病になりやすい状態だと言えます。
また、そもそもしっかり上下の歯がかみ合っていないことが多いのですが、デコボコ部分だけが強く当たって、歯が磨り減ったり、歯の根っこがダメージを受けて短くなったりすることもあります。
Q:どのような治療方法がありますか?
乳歯が残っていてこれから大きく顎が成長するお子さんと成人とでは治療方法が違います。これから永久歯に生え変わる場合はアゴの幅を広げたり、奥歯を後ろに移動させたりして歯が並ぶスペースを作ります。
その後、顎の成長と歯の生え変わりを待ってどうなるか経過を観察します。成人の方やすべて永久歯に生え変わった中学生以上のお子さんの場合は、デコボコの量や全体的なかみ合わせや骨格を考慮して、同様な治療を行うか、永久歯の数本を抜歯するかの判断をし、マルチブラケット装置で治療を行います。
経過観察が終了したお子さんも必要があれば抜歯を行い、同様に治療を行います。
図5 マルチブラケット装置
Q:具体的にどのような装置を使いますか?
図6はアゴの幅を広げる装置で、取り外しができるタイプのものです。これ以外にもいろいろなタイプがありますが(図10,11)、このような装置でまずアゴの幅を広げて歯が並ぶスペースを確保してから、今度は「ブラケット」という金具を歯に接着して細い針金を調整してデコボコを治していきます(図7,8,9)。
図6 可撤式拡大装置
このケースはまだ乳歯が残っているお子さんですが、永久歯がすべて生え揃っている場合は図5の装置で治していきます。
図7
図8
図9
図10 固定式拡大装置
図11 ヘッドギアー(奥歯を後ろに動かすことができる)
Q:硬いものをよく食べると顎が大きくなって叢生を予防できますか?
あまり噛まない人よりよくかむ人の方があごの発育はよくなる可能性はありますが、だからといって硬いものばかり食べていれば、アゴが大きくなるというわけでもありません。残念ながらそれだけで予防にはならないと思います。
歯の大きさやアゴの大きさは遺伝します。もともと歯が大きいご両親のお子さんの歯は、やはり大きいですから、遺伝的要素の影響は強いと思います。
叢生の予防には虫歯にならないように歯磨きを頑張ることが最も有効です。むし歯で早期に乳歯が抜けてしまうことも叢生の原因のひとつです。下の写真を見てください。
一番うしろに見えているのは6歳臼歯です。向かって左側は乳歯が2本抜けてしまっています。右側は乳歯が2本あるので6歳臼歯の位置はこのままですが、左側の6歳臼歯はこのままだと矢印の方向に移動してしまいます。
そうすると本来乳歯が抜けた後に生える予定の永久歯(小臼歯)の生える場所が無くなって左側はひどい叢生になってしまいます。
このような場合は6歳臼歯が前に動かないように裏側から固定する装置が必要になります。すでに前に移動している場合はヘッドギアーなどの装置で正しい場所まで移動させなければなりません。
Q:叢生の治療の開始時期はいつがいいでしょうか?
デコボコの程度やその人の歯の生え変わりの早さにもよりますが、できれば永久歯が生え揃う前、上の前歯が2本生えてきた頃がいいと思います。まだ6歳臼歯が生えておらず、下の前歯だけが永久歯といった状態では、すぐに治療を開始しません。
矯正の装置の使用は小さなお子さんには取り扱いも大変です。又、顎を広げる場合は6歳臼歯が生えた状態の方が有効ですし、広げた後に可能な場合は前歯を揃えることを考えれば、上の前歯が生え変わる頃がベストなタイミングだと思います。